経営者によって賞味期限は違っている。
肉や鮮魚のようにあっという聞に賞味期限が来てしまい、発想やアイデアが枯渇してしまう経営者もいれば、ワインのように長い年月をかけて熟成し、ますます素晴らしい創造性を発揮する経営者もいる。
しかしワインだって、未来永劫に美味しきが続くわけではない。
いつかは酢になってしまい、味が落ちる日がやってくる。
それと同じように、どんなに発想が豊かで柔軟で、素晴らしいアイデアを持っていると見えた経営者でも、いつかはその発想がなくなる日がやってくる。
賞味期限切れの日がついに訪れたというのに、自分に絶対的な自信のある経営者は、自分が賞味期限切れになったとは信じたくない。
「まだまだオレにはアイデアも才能もあるんだ」と言い聞かせ、現場にどんどん口を出そうとする。
しかし経営者のアイデアはすでに枯渇して老化しているから、現場に口を出してもいい方向には進まない。
悪いスパイラルにどんどん陥ってしまい、そして崩壊していく。
そんな会社は、実に多い。
そしてある日、老化した経営者は、「なんでオレが全部自分でやってるんだ?もっと優秀なやつはいないのか」と初めて周りを見わたすようになる。
ところが自分に絶対の自信があった経営者は人材の育成にはあまり力を入れていないから、社内を探してもたいした人材は育っていない。
そうなると、必ず経営者はこう愚痴をこぼすようになるのである。
でっちにはいい人材がいないんだ」こういうことを言い出すようになった経営者は、要注意である。
「いい人材がいない」のではなく、経営者が「いい人材を育ててこなかった」だけではないか。
自分が経営メンバーを育ててこなかったことを棚に上げ、人材不足を嘆くようになりういには会社は成長を止め、停滞の中へと入っていく。
せっかくのこれまでの成功もこれで終わりを告げ、かつては輝いていた会社も、ダメ会社の仲間入りをしていく。
経営者のやるべきもっとも大事なことは、自分がバトンを渡すべきすぐれた経営メンバーを育てることなのである。
自分の遺志を伝え、次の世代を担ってくれる人材を育てることなのである。
産業界で本当に評価される経営者というのは、新奇な商品を開発したアイデアマンではなし自分の作った会社が五年後、十年後、さらには百年後へと続いていくための後継者をきちんと育成している経営者が、本当に尊敬される経営者として後世まで評価されていく。
実際、世間に名だたる名経営者と呼ばれている人の中には、経営者としての仕事の最後の締めくくりとして、経営塾に手を染めたがる人が実に多い。
そうした経営塾の多くは、寺子屋的な少人数教育である。
大規模なセミナーなどのスタイルでは経営の神髄は伝えられないからだ。
私は仕事柄、さまざまな経営者と会うことが多い。
経営者に取り次いでもらうために秘書室の人を通すことも多く、秘書の方たちとのおつきあいも大事な仕事のひとつである。
ときどき、秘書の方や社長本人に頼んで、社長のスケジュール表を見せてもらうこともある。
企業経営者というのはいったいどのぐらい忙しく、そしてその忙しさの中身はどうなっているのかということを知りたいと思うからだ。
そんなふうにしていろんな社長のスケジュール表を見ていると、共通している点がいくつかあることに気づかされる。
まだ成長途上の社長のスケジュール表は、たいてい二つの予定でびっしりと埋まっている。
「会議」と「会食」である。
社長にとっては会議は義務のようなものだから、しかたない。
会社の戦略や戦術、事業計画などについて、会議は社長の判断を迫られる場所となっているからだ。
もうひとつの「会食」が多いのは、どうしてだろうか。
もちろん社長の大事な仕事のひとつにはトップセールスがあるから、商談のためにランチや夜の宴席を設けているケ−スも多いだろう。
だが多くの成長企業の社長たちに聞いてみると、スケジュール表に入っている「会食」というのは、必ずしも営業活動ばかりではないという。
実は宮業活動ではなく、情報収集の手段として食事や宴席を設けているケースが非常に多いというのである。
会議ばかりが毎日毎日続いていると、社長の発想の源泉はだんだん枯渇してくる。
会議は社長業のメインとも言える仕事で、最終的な経営判断を行う重要な場である。
とはいっても、あまりに会議が多すぎると、案件の処理に追われてしまい、新製品や世の中の流行に目を向ける時間もなくなってしまう。
日常の仕事に追われているだけでは、人間はアイデアを生み出すことはできない。
無駄ではあっても、さまざまな空気に触れ、多くの人に会って刺激を受けることが大切なのだ。
そこで世の中の社長は、何とか新発想や新アイデアのとっかかりを作ろうと、意識的に多くの人に会って刺激を受けようと考える。
社長にとっては社外の人とのディナーやランチは、単なる息抜きや接待だけではなく、事業展開のパワ−の源泉ともなる重要な場なのである。
しかし現実を見れば、そうした会食の時間というのは火急の用事とは言えないから、他の重要な会議や商談などが立て込んでくると、スケジュールからはじき出されてしまう。
知人や友人などの社外の人と自由に会食する時間はどんどん減ってしまい、気がつけば毎日の止うに会議に忙殺されてしまっているというのが、多くの社長の悩みの種になっているようだ。
実際、私が「アントレ」の仕事をする中で、経営トップに会おうと面会を申し込んでも、なかなかアポイントメントが取れないというケ−スは少なくなかった。
最初は、「ひょっとしたらこの会社の社長は、私を避けているんだろうか?」などと疑心暗鬼に陥ったこともあったのだが、多くの経営者に会ううちに、実はそうではないことに気づいた。
たいていの経営者はものすごく忙しくて、『アントレ』の編集長と会って雑談をするという火急の用ではないアポイントメントに対応する時間がないのである。
会議やトップセールスだけではない。
意外に多いのが、冠婚葬祭だ。
部下が百人ぐらいの会社ともなれば、父母や祖父母のお葬式だけでかなりの数になる。
結婚式もある。
もっとすごいのは、ビジネスを代理屈展開しているような企業だ。
私が知っているある経営者は、代理店の社長や幹部の冠婚葬祭に追われまくっており、葬儀だけでも一年間に百回程度、結婚式が五十回ぐらいもあるという。
話を聞かされて驚いた私に対して、その経営者は自閉気味に笑って言った。
「会社でいちばんよく着てる服は、喪服ですね」ほとんど冠婚葬祭のために働いているようなものである。
現場のマネージャーや部長、役員の多くは、「実務で忙しくて経営をじっくり考える暇がない」と考えている。
だが実際に社長になって、「よし、これからは長期的な経営戦略をじっくりと練ろう」と決意しても、実際には会議やトップセールス、冠婚葬祭に追われてそんな悠長なことをしている時間はまったくなかったーーということになってしまうケ−スが少なくないのだ。
社長は異常に忙しいのである。
では、そんな状況に陥ってしまっている経営者は、どこから新事業の発想を生み出しているのだろう。
私はこれまでに出会った多くの社長たちに、「新しい事業のプランを生み出すのは、どんなきっかけやどんな場所からですか?」と聞いてみたことがある。
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